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音楽とお酒と歴史探索が趣味です。色々書きなぐってます。
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  プロフィール
HN:
赤澤 舞
性別:
女性
職業:
飲食店店員
趣味:
お菓子作ったりピアノ弾いたり本読んだり絵描いたり
自己紹介:
東京・神奈川・埼玉あたりでちょこまか歌 を歌っております。

一応声種はソプラノらしいですが、自分は あんまりこだわってません(笑) 要望があればメッツォもアルトもやりま すヽ(^。^)丿

音楽とお酒と猫を愛してます(*´▽`*) 美味しいものには目がありません。

レトロゲームや特撮も好物です。

ヴァイオリンは好きだけど弾けませんorz
  P R
2024/05/19 (Sun)
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2014/08/09 (Sat)
さてさてこんにちは!


無事にマクベス終演が致しまして、そしてやっと一段落できて、改めまして色々考える余裕が出来てきました。

今回、私の中では今までで一番大きなステージに関われたと思います。実は数年前の自分の夢は、既に叶えられました。
大学生で、まだちゃんと歌を勉強する前。「合唱でも端役でもいい、オペラで歌ってみたい」と漠然と思っていたのです。オーケストラ付で、素晴らしいキャストの皆様と一緒に、同じ舞台にキャストのひとりとして立てて、本当に幸せでした。

ただ、今回は同時に自分の未熟さや視野の狭さを痛感致しました。

ただ歌いたいというだけでは、もはや意味が無いんじゃないか。オペラって楽しいって、色んな人に知ってもらうためには、何ができるのか。

技術的にも精神的にもへなちょこな自分ですが、これからも自分のできることを自分なりに探していこうと思ったのでした。

ううむ。精進します。

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2014/07/27 (Sun)
(注意)これは私の妄想の産物である、いわゆる二次創作です。キャラ作りの勉強のために書いていたものなので、個人の偏見・解釈を大いに含みます。





【家政婦は見ていた!】



私が生まれた国は、スコットランドにあるグラミスという豊かな国でした。

私の母は私が小さいときに亡くなりましたが、グラミスの領主さまに仕える侍女でした。なので、私も領主さまにお仕えするように、小さいときから言われて育ちました。

大きくなると、私は領主さまの、奥さまにお仕えすることになりました。

領主のマクベスさまと奥方さまは、とても仲良しな夫婦でした。
お二人には子供がいませんでしたが、とても幸せに暮らしておりました。

私はお着せにお使いなど、側仕えの仕事を一生懸命覚えました。
奥方さまはとても綺麗で明るく愛情深い方で、おしゃべりが好きでした。
私はときどき奥方さまの話し相手になりました。

あるとき、私は奥方さまの専属の側仕えに選ばれました。
奥方さまは私を、貴族しか出られないパーティーに連れていってくださったりしました。

そんなある日のことです。領主さまが、戦に出ることになりました。
お妃さまはとても心配して、私に言いました。
「あのひとは優しくて王さまには申し分ないけれど、すこし臆病なところがあるのが珠に傷。無事に帰って来られるかしら。」

私はこう答えました。

「大丈夫でございますとも。マクベスさまはとても運の良いお方、きっと大活躍してお帰りになりますわ。」

それからしばらくたって、戦地の領主さまから手紙が届きました。
喜んだ奥方さまは、手紙をもって小躍りしながら言いました。

「明かりをもっておいで。きっと良いお知らせだわ。あのひとがもうすぐ帰ってくるんだわ。」

私はランタンを持ってきて、火を着けました。

歩きながら夢中で手紙を読む奥方さまをお部屋までお送りして、私は仕事に戻りました。
とにかく、やることがたくさんあります。夕食の準備と、ベッドの支度と、夜着の用意。急がないと、マクベスさまのお帰りに間に合いません。

その時、伝令の使者がやってきました。

「伝達です!スコットランド国王陛下が、こちらのお城にいらっしゃいます!」

召し使いたちは大慌て。おもてなしの特別な準備をする暇もありません。
私が従者たちと連れだって急いで玄関にお迎えに行きますと、既に領主さまは帰ってきていて、奥方さまと国王陛下の到着を待っておりました。

間もなく国王陛下の行列がやってきました。スコットランド全土を統べる国王さまのご宿泊に、最上のお部屋が用意されました。

私は国王さまがお部屋に下がられると、いつものように奥方さまのお休みの支度をお手伝いしてから休みました。


明け方近くのことでした。

眠っていると、奥方さまのお部屋から物音が聞こえました。
続いて呼び鈴の音がしたので、私は奥方さまの寝室に入りました。

「奥方さま?」

「夜着を持ってきておくれ。急いで。」

奥方さまはドレスをお脱ぎになった状態でした。側には領主さまもいます。部屋が暗くてよく見えませんが、領主さまは服を着たままでした。

「かしこまりました。」

「このひとの夜着もね。あと、水を桶に一杯、持ってきて。置いたら下がっていいわ。」

「はい、ただいま。」

私は衣装部屋から夜着を2着と、龜から汲んだ水を入れた桶を持っていきました。真っ暗な部屋で、奥方さまの眼だけが妙に光って見えたので、少し恐ろしくなって、私は自分の部屋に戻ってからも眠れませんでした。

それからほどなくして、にわかに部屋の外が騒がしくなりました。領主さまと奥方さまが部屋から飛び出してきたので、私もそれについていきました。

見ると、客間の前に人だかりが出来ていました。
なんと客間にお泊まりになっていたスコットランドの王さまが、ベッドの上で血まみれになってこと切れていたのです。
お城はもう大騒ぎです。


家来の人たちがどうしたものか相談をし始めたので、ひとまず部屋に引き下がろうとしたその時です。
奥方さまの顔が一瞬強張りました。その視線の先には、一振りの短剣が落ちています。
王さまを死に至らしめた剣でした。

奥方さまは部屋に戻ろうとしながら、周囲に気取られぬようにその剣を拾って袖に隠しました。
周りの誰も、それには気付きませんでした。ただ、側にいた私だけはそれを見ていました。

お部屋に戻ったお妃さまはベッドに座って、私の方を見ずに言いました。

「おまえはもうお下がり。今日はわたくし気分が優れないから、ずっとひとりにしておいてちょうだい。」

「…はい。なにかお入り用なものは…」

「なにも。いいから、しばらく放っておいて。」

私は何も言えずに、立ち去るしかありませんでした。




スコットランドの王さまが亡くなってしまったので、間もなくマクベスさまが次のスコットランド王になりました。
スコットランド王には息子がおりましたが、父王さまが亡くなってすぐに隣の国へ逃げていってしまいました。
そのために、王子さまが父王さまを殺したのではないかと噂になりました。

あの事件依頼、奥方さまは何かにつけてイライラするようになりました。
私は、あの事件が原因かと考えたのですが、その苛立ちはもっぱら夫の王さまに向けられているようでした。
そして当のマクベスさまは、スコットランド全土の王さまになったというのに、いつも何かに怯えているようでした。
お勤めも忙しくなったせいか、奥方さまともあまりお話をしなくなりました。

私はお妃さまが寂しくないように、たくさん話しかけました。

「王さまはお仕事がお忙しいのですよ。」

「そうかしら。わたくしの顔を見るのが怖いのかもしれないわ。」

「そんなはずがありません、愛する奥方さまを怖がる殿方がどこにおられるというのでしょう。それにマクベスさまは今やスコットランド王、この国であの方が恐れるものなど何もございますまい。」

「あのひとはまだわたくしのことを愛していると思う?」

「ええ、ええ。もちろんですよ。あの方ほど奥方さまを大事になさる王さまを、私は他に知りません。」

すると奥方さまは安心したようにため息をつくのでした。

「そうよ、そうよね。わたくしはあのひとがわたくしを一番に可愛がってくれたらそれでいいのよ。かわりにわたくしはあのひとの望みなら、なんでも叶えて差上げるわ。そうよ、なんでもよ。」

そう言って笑う奥方さまの横顔が、なんだか影を帯びたように見えて、すこし私はゾッとしました。






マクベスさまがスコットランド国王になったお祝いの宴が開かれることになりました。
今までのとは比べ物にならない豪華な広間に、素晴らしいご馳走が並びます。

しきりに贈られる賛辞に、王さまもお妃さまも嬉しそうでした。私もお妃さまの晴れ舞台に、頬が緩みました。
おもてなし好きなお妃さまが、乾杯の音頭を取ります。宴は賑やかに続きました。

その最中でした。いきなり王さまが真っ青な顔で叫びだしました。

「違う!わたしがやったのではない…!」

王さまは虚空を見つめて、あらんかぎり目を見開いていました。常人には見えないものを見ているようでした。

「そこにあいつがいる!…ええい、何か言ってみろ!」

何か不快だったのだろうと、客人の貴族たちは席を立とうとしました。私も別室へ下がろうとしました。ところがお妃さまが一生懸命引き留めました。

「しばしお待ちください。良くあることなのですよ、持病なんです。すぐに良くなりますから!」

王さまにこんな発作の持病があるなんて、もちろん嘘です。私は初めて見る王さまの様子にびっくりしましたが、お妃さまが必死で取り繕っておりますのでそれに倣って落ち着きを装いました。

しばらくすると王さまはもとに戻りました。
宴が再開されたので、私も一生懸命盛り上げました。
けれどもまたふとした瞬間におぞましい言葉を呟くので、皆すっかり怖がってしまいました。

「地獄の亡霊め!わたしはおまえなぞ怖くないぞ!消えろ、消えてなくなれ!!」

「あなた、しっかりしてください!」

お妃さまが必死で王さまを宥めます。その時のお顔が、前王さまの殺された日に短剣を拾っていたときと同じようでしたので、私は言い知れない恐ろしさを感じました。
ご主人様たちがなにをしたのか、分かってしまったような気がしました。


他のお客様たちも、強張った顔で王さまを見つめていました。

(やっぱり先代の王を殺したのはあいつらだ)
(亡霊にとりつかれたか)
(あんなやつが王になるなんて。この国はもうだめだ)

ひそひそ話す声が貴族たちの中から聞こえました。
私は何も言えませんでしたが、その話をしている貴族たちがたまらなく嫌な人たちに思えました。
あのひとたちはマクベスさまがお優しいのを知らないんだ。奥方さまの愛情深さが分からないんだ。そう思ったらなんだか悲しくなりました。



結局、宴はお妃さまが王さまを連れて部屋に引っ込み、客人を下がらせる形で終わりました。私はお妃さまについて部屋にもどりました。
お妃さまは何もいいませんでしたが、ひどく憔悴しておられました。



この宴以来、王さまはご様子がおかしくなりました。ますます何かに怯えることが増えたのです。


あるとき、王さまが家来を数人だけ連れて突然お出かけになったことがありました。
行く先も告げずに出かけましたので、残された家来たちは大層戸惑いました。

「わたくしが探してまいります。どこへ行ったかは検討がついているのよ。警護の兵を用意して。」

お妃さま直々に探しに行こうとするので、私は必死で止めました。

「お妃さま、危のうございます。捜索は兵士たちにお任せください。」


「危ないことがありますか。あのひとが行くところ、妻のわたくしが行かなくてどうします?邪魔をしないでちょうだい、はむかうようなら、おまえでも容赦はしなくてよ。」

お妃さまが怖い顔で睨むので、私はとうとう折れました。

数日経って、お妃さまは言った通り王さまを連れて帰ってきました。
ふたりとも無事で、しかも前より元気になったように見えました。ただ、笑顔に落ちた影がますます濃くなったように見えて、私は嫌な予感がしました。

それから数日たったある日、急に大勢の兵士たちがお城から出かけていきました。

「どうしたのかしら、今はどことも戦はしていないはずなのに。」

召し使いたちは不安そうに話していました。

「王さまのご命令だってさ。」

「また戦かしら。嫌だわ、やっと終わったと思ったのに。」

「いや、どうやら戦じゃないらしい。」

「仕入れにきたお百姓さんから聞いたんだけど、王さまはあるお城のひとたちを皆殺しになさったそうだよ。」

「どこの?」

「ファイフの領主さまのさ。」

「マクダフさまの!」

「ひどいものさ、奥方さまもご子息さまも家来も使用人も、全員殺された。」

「マクダフさまご本人は、その直前に行方不明になったそうな。」

「もうファイフは王さまの手に落ちたそうだ。」

あんなに優しかった王さまがそんなことをなさるとは、にわかには信じられない話でした。

けれども王さまは、それ以来人が変わったように家来をどなったり召し使いに当たり散らしたりするようになりました。
何かに怯えることが無くなったかわりに、とても乱暴になりました。



「これでいいのよ、これであのひとは王さまになれたんだもの。あのひとの邪魔をする奴は、みんな居なくなってしまえばいいわ。」

お妃さまは熱に浮かされたように、笑って言いました。

「お妃さま、お食事を取ってくださいまし。お体に障ります。」

「食欲がないの。それより、あのひとは?今どうしているかしら?」

「王さまは…今ご気分が優れないようで、お休みになっております。」

本当は王さまはお元気でしたが、あんな王さまに会わせるのはお妃さまがかわいそうな気がしました。





「またどこかの領主さまが処刑されたぞ。」

「王さまに意見したから、ご機嫌を損ねたらしい。」

「こんな国には居られない。」


家来たちのなかには、逃げ出すものも現れました。
でも私は、お妃さまを放って城を出ていく気にはなれませんでした。

この方たちは先王さまをはじめたくさんのひとを殺めたかもしれませんが、私にとっては敬愛する主人です。彼らに仕えるために育てられた私は、ここで生きるすべしか知りません。





「ねえ、あのひとはこの頃わたくしのことなど見向きもしないで、他のことばかり考えているのよ。どの家来が刃向かったとか、どこの領主を打ち首にするとか。あのひとの邪魔をする奴らなんて、わたくしがみんな葬って差上げるのに。」

お妃さまはぼんやりすることが多くなってきました。

「………、お仕事が、お忙しいだけですわ。きっと。」

「…ああ、やや子でも居れば話は違ったのかしら。でももう遅すぎるわね。夜に会いに来てくださらなくなって、もうずいぶん経つもの。きっとあのひとの心の中にわたくしにはもう居ないんだわ。」

「王さまは、お妃さまを大事に思っておりますわ。さぁお妃さま、お休みにならないと。お加減が悪くては王さまにも会えませんよ。」

「…そうよ。ファイフの夫人にも、お世継ぎがいたんだったわ。女も子供も、わたくしが殺したんだわ。」

そう言って、お妃さまは両の手をじっと見つめました。









突然悲鳴が聞こえて、私はお妃さまの部屋に飛んできました。


「暗いわ、灯りを!早くランタンをちょうだい!」

私は大急ぎでランタンに火をつけました。

「ああよく見える。いいこと、一晩中火を絶やさないでおくれ。」

「承知致しました。」

「それにしても遅いわ、あのひとはなにをしているの?早くしなければ夜が明けてしまうというのに…!」

「………、お妃さま、王さまは一昨日から、戦場にお出かけになりました。」

「ああ、そうだったかしら?まあいいわ、あのひとが戻ってきたら、すぐにお知らせしてちょうだい。」

「かしこまりました。」





「ねえ、ちゃんと汚れは落ちてるかしら。綺麗になっているわよね?」

お妃さまは手を私に見せました。
小さな白い手は、擦りすぎて赤くなっていました。

「ええ、綺麗ですとも。さあ、お休みになってくださいな。もう何日も眠っていらっしゃらないでしょう?」

「違うの、違うの!わたくし、自分が汚れてることは知っていてよ。でもわたくしはそれを後悔なんてしてないわ。あのひとは王さまになれたし、これでみんなあのひとの思い通りになる。あのひとは幸せなんでしょう?今はどちらにいらっしゃるのかしら?」

「…今は、ランファナンにおられるかと。」

「ちっとも会いに来てくださらないんだもの、わたくし何かあのひとの気に障ることしたかしら?…ああ、本当に頑固な汚れだわ。もっと、水を持ってきて!」

「…………、かしこまりました。」




お妃さまのお加減はますます悪くなるばかりでした。少しずつ眠っている時間が増えて、お食事も殆ど取らなくなりました。そして起き出すと独り言をずっと呟いていて、こちらからの問いかけには答えなくなりました。

美しかったお顔はすっかり頬も痩け、髪の艶もなく、いつも手を擦っているために手の皮も爪もボロボロになってしまいました。
私は眠りに良いとされる薬草やお香など、片っ端から試してみましたが効果はありませんでした。

お城の外では、王さまのために家や家族を失った人々が溢れていました。
王さまは、今や暴君と呼ばれています。ほとんど自分のお部屋にこもりきりで、私もおいそれと会うことができなくなりました。

他の召し使いたちはひとりまたひとりと辞めていき、すっかり数も減ってしまいました。
それでも私はお妃さまのお世話を続けました。私はここでの生き方しか知らないし、こんな状態のお妃さまを見捨てていくことなんてとても出来なかったからです。

けれども私ひとりでお妃さまを看病するのは容易なことではありませんでした。

お妃さまがもうまともな会話が出来なくなってずいぶん経ちますので、私は基本的に人と話すことが無くなりました。
お妃さまが発作を起こしますと、私はどうしていいか分からず見ているしかありません。時々声を荒げることもありました。手を貸そうとするとたいそう怒りますので、黙って後ろから見ているだけです。目を離した隙にご自分を傷付けたりなさることもあるので、常に目が離せません。



お食事、湯浴み、お着替え、下の御世話。ひとりでこなしていると、あっという間に一日が終わってしまいます。眠れない日が続いて、私もあまりものが食べられなくなってきました。
それでも時々、本当に時々、お妃さまがふと昔のようなお優しい表情をなさることがあったので、そんなときはとてもほっとするのでした。ただしそれはほんの束の間の時間でした。

あるとき、とても酷い発作が起こりました。お妃さまはものを投げたり、叫んだりして暴れ、自分の手を掻き切る勢いで擦りました。その状態が一晩中続いて、止めようとした私も少し怪我をしました。

とうとう、私はお医者さまを呼ぶことにしました。もうお医者さまでもお妃さまを治せないだろう、とどこかで解っていましたが、ひとりきりでお妃さまを見ていることに耐えられなくなったのです。

すぐに国いちばんの評判良いのお医者さまがお城に呼ばれました。私は久しぶりに人と会話をしました。

「ご足労いただきありがとうございます。どうか主人を治してくださいませ。」

「うむ、患者はどこかね。」

「今は、お休みになっておりますわ。もうしばらくすると起きてくるかと。」

「わかりました、待ちましょう。」


昼が過ぎ、夜になりました。お妃さまの部屋は静まり返っています。

「おかしいですわ、いつもならそろそろ起きられるのに。」

「頻度としては、どのくらい出てくるのかね?」

「ほとんど毎晩です。」

「具体的な症状は…。」

「眠っているときに急に立ち上がられて、とりとめのない行動をなさいます。ひとしきり気がすむと、ご自分で床にお戻りになります。」

けれどもこの日はお妃さまは部屋から出てきませんでした。
もしかすると突然起き出すかもしれないので、二人でつきっきりで待ちました。


2日目の朝になり、昼が過ぎ、また夜になりました。

お医者さまはあくびを噛み殺しては、ため息をついていました。私は、ずっと黙っていました。
あまりに静かなので、もしかしたらこのまま起きてこないのではないかと嫌な予感がしました。

「二晩も見ておりますが、何もありませんな。」

沈黙に耐えかねたように、お医者さまが口を開きました。疲労が滲み出ている声でした。

「今日は姿をお見せになるはずです。」

私はこう答えましたが、ほとんど自分に言い聞かせていました。

「歩きまわる以外に、症状はあるのかな。たとえば、眠りながら何か喋るとか。」

私は、とても自分の口からは言えませんでした。

「…生きている人に申し上げるわけには参りませんわ。」



そのとき、ギィと扉が開く音がしました。
続いて衣擦れの音と共に、白い影がゆっくり現れました。

「あ、参りましたわ。」

白い夜衣をまとった、お妃さまでした。ふらふらしてはいますが、まるで起きているように歩いています。手にはランタンを持っていました。

「灯りを持っていますな。ご自分で火を?」

「いつも寝台の脇に置いてあります。灯りを絶やさぬように、とても厳しく仰るものですから。」

「目はしっかり開いているようだ。」

「でも、なにもお見えにはなっておりません。」

「なぜ手をこすっているのかね?」

「手を洗っているおつもりなのです。」

初めてこの光景を見るお医者さまは、お妃さまの一挙一動について私に尋ねました。私は答えられる限り答えました。

知らない人を見たらお妃さまが怖がられるかも知れないと思ったので、お妃さまの視界に入らないようにお医者さまを物陰に引っ張りこんで、自分も隠れました。


「まだ、ここに汚れがひとつ…」

ふいに、お妃さまがぼんやりとしゃべり始めました。
お医者さまはひとことも聞き漏らすまいと息を殺しました。

「忌々しい…。消えなさいというのに!」

そういって擦った手は、きっとお妃さまには赤く見えるんだろう、と思いました。

「さぁ時間よ、早く、いそいで…。入れないの?まあ臆病ね、それでも軍人なの?」

誰かに話しかけるそぶりで、お妃さまは手を振り上げました。
あれはきっと王さまだ、と私は思いました。お妃さまの中では、王さまはまだ臆病で優しい王さまでした。

「老人の体にこんなに血があるなんて…!」

「何の話をしているんだ…?」

なにも知らないお医者さまは、恐ろしい言葉に驚いたようで私に聞きました。
私はただ、「ご覧になっていれば分かります」とだけ答えました。

お妃さまは今度は声を低くして、呟きました。

「そういえば、ファイフの奥方さまとお子さんはどこへ行ったかしら?何かあったのかしら…?」

彼らがどんな最期を遂げたか、お妃さまは知っているはずでした。

それもこれも、みんなみんなマクベスさまのためでした。お妃さまは王さまのために他の幸せを奪ったことを後悔はしていないと仰っていましたが、考えてみればやさしいお妃さまにそんなことが、後悔もなしに出来るわけがなかったのです。


「わたくしはどうやってもこの汚れを洗い流せないのかしら…?」

この御方は懺悔すらも出来ないのでしょうか。あまりにむごいと思いました。

「ここはいつも血の臭いがするわ。きっとアラビア中の香油を使っても、この手を清めることは出来ないんだわ…」

見ていられなくて、私は思わず目を伏せました。
お妃さまは呻き声を上げました。
胸に石が詰まったような、重い呻きでした。
どんなに高い位についても、このように苦しまねばならないならいっそ死んだ方が。
私は思わずお医者さまを見つめました。「もう楽にしてあげてください」。

「さあ夜着を着て、手を洗って!バンクォーは死んだのですよ。死者は墓から戻ってくることはありませんわ。」

「こんなことまでしていたとは…」

お医者さまは、ショックで言葉を失っていました。私は、自分以外に秘密を共有する相手ができたことに少なからず安堵していました。

「早く寝床へ…。犯したことは取り返しがつかないのですよ。行きましょう、マクベス。あなたの青ざめた顔を誰かに見られないように。」

お妃さまはここで毎日罪を犯した日を繰返していて、お妃さまのなかでは、あの日で時が止まっているのでした。
私には、お妃さまのために祈るしか出来ませんでした。

お妃さまは隣にいると思い込んでいるマクベスさまの幻を連れていくそぶりをしながら、驚くほど普通の足取りで寝室にお戻りになりました。

私は慌てて後を追い、寝床へお妃さまを寝かせました。

お医者さまは一部始終をごらんになって、青い顔で額の汗を拭きました。

「これは明らかに、夢遊病の症状だ。」

「お医者さま、どうか治療を。お妃さまを元に戻してくださいませ。」


「ううむ。心の病は医師ではなんとも…。奥方さまに必要なのは、薬ではなく教会の祈りじゃ。」

「…では治る見込みは無いと?」

「ひとまず、よく眠らせること。身体に傷を付けるおそれのあるものは近付けずに、監視を続けること。それしかあるまい。」

私は頷くしかありませんでした。


その日の夜のことでした。

急にお妃さまが苦しがり、胸を押さえて倒れました。お医者さまを慌てて連れていくと、もう死んでいる、と仰いました。

なんて呆気ないのでしょう。

眠り薬などを使いすぎたのではないか、或いは幻覚のショックか、いずれかか原因であろうというお医者さまの説明を、私は半分ほど聞き流していました。
もう原因なんてどうでもよいことでした。残ったのはやっとお妃さまは楽になった、という思いと、喪失感だけでした。

ひとつ、心残りがあるとすれば。

私はお妃さまの処置をお医者さまに任せて、部屋を飛び出しました。
一目散に向かったのは、王さまの部屋でした。

ノックも礼も忘れて、私は部屋に飛び込みました。息を切らせていきなり現れた私を、王さまは冷ややかに見やりました。久しぶりに見た王さまは、ずいぶんやつれていました。
視線は鋭くなり、感情のない瞳でこちらを見ていました。

「お妃さまが、お亡くなりになりました!」

私は精一杯の大声で言いました。
これで王さまが悲しんでくださったら、お妃さまも報われる気がしたのです。
けれども、王さまは興味を無くしたように私から視線を外しました。

「くだらん。人はいつか死ぬ。大したことではあるまい。」

その瞬間、私は急に内側から何かがガラガラ崩れるのを感じました。
これでは、奥方さまは何のために心を病むほど苦しまれたのでしょうか?
私は、逃げるようにその場をあとにしました。

お妃さまの亡骸の側に佇むと、私はもうどこにも自分の居場所が無くなったことを悟りました。

しばらくするとお城がにわかに騒がしくなりました。兵士が
「城が敵兵に囲まれた!」
と叫んでいます。

もはや戦力となる兵も僅かしかいないこの城に、勝ち目はないでしょう。外に逃げてもたぶん、逃げ切れません。
私は、お妃さまの短剣を手に取りました。お妃さまの自傷を防ぐために隠しておいたものです。

「奥方さま、私も、後悔なんてしておりません。」

私は、綺麗な銀色の刃先を首に当て、精一杯奥方さまに笑いながら思い切り横に引きました。


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* ILLUSTRATION BY nyao *